生物?環境

地下水中トリチウムを用いた水文学解析により福島第一原発から港湾に流出する放射性セシウムの供給源と変動要因を解明

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 福島第一原発の排水路を通じて同原発の港湾へ流出する放射性セシウム(137Cs)の供給源と変動要因を明らかにしました。タンク水漏洩由来の地下水中トリチウム(3H)を水文トレーサとして活用した成果で、137Csの5割は原子炉建屋に降った雨水が起源の「屋根排水」由来と推定されました。

 東京電力ホールディングス?福島第一原子力発電所では2011年3月の事故後、複数の汚染水対策が講じられてきました。その結果、放射性セシウム(137Cs)の海洋流出は大幅に減少しましたが、現在もわずかながら続いており、2016年以降は同原発港湾内の海水濃度に夏季上昇?冬季低下や降雨後に上昇するといった変動が見られていました。その主な原因は、2015年に排水先を外洋から港湾内に付け替えたK排水路からの流出の影響と考えられていますが、詳細は明らかになっていませんでした。

 本研究では、2013年および2014年のタンク水漏洩由来の地下水中のトリチウム(3H)を水文トレーサとして活用し、K排水路を介した発電所構内から海への137Csの流出経路を明らかにしました。解析の結果、原子炉建屋の屋根に降った雨水が建屋の雨どいなどを経由して排出される「屋根排水」が主な137Csの供給源であることが判明しました。また、地下水に由来する「基底流」は気温に応じて137Cs濃度が変動しており、夏季に高くなる傾向が見られました。2016~2021年における137Cs年間流出量における寄与率は、屋根排水が53%、雨水による地表流が31%、基底流が15%と推定されました。

 本研究は、事故由来の3Hを水文学的トレーサとして用いることで、発電所構内からの137Csの流出経路と経路ごとの寄与割合を定量的に明らかにしたものです。従来不明瞭であった137Csの流出経路と濃度変動要因の関係を解明したことにより、モニタリング体制の改善や汚染源対策の強化に貢献する重要な知見を提供しています。また、本手法を他施設や他の放射性核種に応用することで、今後の除染や廃炉作業に向けた環境管理の高度化に資することが期待されます。

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プレスリリース

研究代表者

网上哪里能买篮彩生命環境系/放射線?アイソトープ地球システム研究センター(CRiES)
恩田 裕一 教授

掲載論文

【題名】
Leaked Tritium Reveals the Source of 137Cs from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant to the Ocean
(流出したトリチウムが明らかにした福島第一原子力発電所から海洋への137Csの放出源)
【掲載誌】
Water Research
【DOI】
10.1016/j.watres.2025.124464

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