テクノロジー?材料

神経細胞の微細な三次元構造の観察精度を10倍高める手法を開発

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(Image by Remigiusz Gora/Shutterstock)
 半導体の微細構造の計測に使われていた光波散乱計測を神経細胞の計測に応用することに世界で初めて成功しました。試料に照射した光の回折パターンから形状を読み取る精度を機械学習で高めるなどした成果で、従来の光学顕微鏡に比べて分解能と計測速度が10倍以上になりました。

 脳は多数の神経細胞を基本単位として構成され、その一つひとつが情報処理の基盤となっています。しかし、その働きはいまだ十分には理解されていません。特に記憶のメカニズムは脳科学の重要な未解決問題で、その発現原理や情報処理機構は不明です。この問題を解く一つの手法として、単一神経細胞の形態や内部構造の動態を、非侵襲かつ高分解能で計測する手法が挙げられます。その中でも代表的手法が蛍光顕微鏡法です。同法では、試料中の特定の物質を蛍光色素で標識し、励起光を照射して蛍光色素が発する蛍光を観察します。しかし、蛍光標識の困難さや色素の生体毒性などの制約があり、また、高分解能計測には時間がかかるなどの課題もありました。

 本研究チームは、神経細胞の微細構造を高速かつ高精度に3次元計測する技術を開発しました。具体的には、標識がいらず、非破壊?非接触で試料の形状などを直接解析できる光波散乱計測と呼ばれる手法を神経細胞に適用することに成功しました。この手法は、試料に照射した光の回折パターンから元の形状を直接算出するものです。従来の光学顕微鏡は、レンズを使った結像に伴い、ニセの像(アーチファクト)が生じることが解像度を下げていましたが、本手法にはそのようなことがありません。そのため、2μm(μm=100万分の1メートル)径の細胞で0.2μmの計測精度が実現できました。原理的には、細胞内部の小胞の位置や時間幅1ms(ms=1000分の1秒)で発せられる神経細胞の電気信号も計測可能です。従来比で精度?計測時間ともに一桁向上しました。

 光波散乱計測は半導体分野で実用化が進んでいましたが、対象は周期性のある構造を持つものに対象は限られていました。本研究チームは、新たな計測?計算?解析手法を開発することで、この壁を乗り越えました。神経細胞は形状が比較的明確であるため、今回開発した手法の適用可能性が高く、脳の記憶メカニズムの解明などに貢献することが期待されます。

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プレスリリース

研究代表者

网上哪里能买篮彩医学医療系
岩田 卓 助教

网上哪里能买篮彩イノベイティブ計測技術開発研究センター
星野 鉄哉 研究員

掲載論文

【題名】
High-speed three-dimensional cross-sectional measurement of cultured neurons by scatterometry that improves resolution by an order of magnitude
(分解能の1桁向上を可能とする、光波散乱計測を用いた培養神経細胞の高速3次元断面計測)
【掲載誌】
Optics Express
【DOI】
10.1364/OE.553331

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